山川出版『詳説日本史』のこの項の冒頭には
「戦国大名の中で全国統一の野望を最初にいだき,実行に移したのは尾張の織田信長であった。」
とあります。もう少しでポケモン最新作『ポケモン+ノブナガの野望』というものが発売されるそうですが,信長が全国統一の野望をいだいたということを示すような事柄を教科書の中からさがしてみましょう。どんなものがありますか?
⇒宗教的権威を屈伏させた。
いきなりそこから入りますか(笑)。確かに比叡山延暦寺の焼打ちや石山本願寺との長年の戦いなどでわかるように逆らうものには徹底的な態度でのぞんでいます。ただし,信長に従った寺社についてまで力で圧倒しようとしたわけではないことは注意しておかなければいけません。
その他には?
⇒足利義昭を将軍にした。
確かに信長の全国統一の道のりの中で重要なポイントとなる出来事でしょう。しかし,信長は純粋に義昭を将軍にして室町幕府を再興させたいという気持ちだったのかもしれませんが?
⇒1573年に義昭を追放して室町幕府を滅ぼしている。
そうそう,ということは信長の行動は,義昭を将軍にさせたいという思いからくる行動ではなく,将軍という権力をみずからの全国統一のために利用したと考えることができますね。しかし,結局は信長と利用されていることに不満を強めた義昭との対立が深まり,結果として信長は義昭を追放することにしました。
大切な事をもうひとつ忘れていませんか?
⇒「天下布武」の印判を使用した
やっとその答えが出てきましたね(笑)。
信長は尾張を統一し,その後,美濃の稲葉山城を手に入れた。この城を岐阜城と名づけ,ここを本拠とすると「天下布武」の印判を使用するようになる。意味は「天下を武力によって統一する」ということ。ここに,信長の野望を見ることができます。
信長は,13代将軍足利義輝が三好三人衆や松永久秀らによって攻め滅ぼされた,1565年に花押を世が治まっている時にしか現れない伝説上の動物?麒麟の「麒」の字とするようになりました。ここには,秩序ある世をつくろうとする信長の気持ちが現れていると考えることもできます。
このようなことから,信長は日本の歴史上はじめて全国統一の野望をいだき,実行に移した人物と考えることができるのではないでしょうか。
さて,ところでみなさんは長篠合戦を知っていますか?
⇒馬を防ぐための柵を設置して鉄砲で当時最強と言われた武田軍を倒した。しかも鉄砲は3段構えの戦法を使った。
模範的な解答ですね(笑)。
しかし,鉄砲3段構えの戦法を本当に使っていたかは疑わしいようです。実際,黒板に貼りつけた『長篠合戦図屏風』を見てみましょう。3段構えになっていますか?
⇒この絵のずっと後ろの方に2段目がいるのでは?
だったら,次の人が準備をして打つまでにものすごい時間がかかるじゃないですか(笑)。
3段構えの戦法は例えば1列目が発砲し終えて,後ろに回るときに右回りなのか左回りなのか,しゃがんで下がるのか立ったままなのかなど,規律をつくって何度も訓練をしなければいけません。戦場の緊張感の中で1列目の人が下がらないうちに2列目が打ってしまえば大事故です。そんな規律ある行動を,細川藤孝から500丁,別の家臣から1000丁みたいに寄せ集めで鉄砲を集めた状況でできるでしょうか。別に3段構えで絶え間なく鉄砲を打たなくても,一斉射撃で武田に与えるダメージは大きかったでしょう。馬が音に驚くということも考えられます。
長篠合戦は3段構えの戦法が画期的だったというのではなく,野戦で馬防柵を設けて相手を迎え撃つような戦い方をしたことが画期的だったということと,大量の鉄砲を実戦に使ったということが重要なことです。
では,信長は3000丁(1000丁という説もある)の鉄砲をどうやって調達したのでしょう?
⇒堺の商人から
信長は義昭を将軍にしたとき,義昭から「信長を副将軍に」という話もあったのですが,それを断り堺・草津・大津などの都市を直轄とすることを求めたそうです。信長の狙いは,京都や堺などの当時の経済の中心地に向かう流通ルートの支配にあったのでしょう。
自治的都市として繁栄した堺は,結果としては信長の支配下に入ることになります。
それからもう少し,
教科書の本文には
「信長は・・・伝統的な政治や経済の秩序・権威を克服して,関所の撤廃など新しい支配体制をつくることをめざして」
とありますが,関所の撤廃が新しい支配体制とどのようにつながるのでしょうか。これを説明することの出来る人はいますか。
⇒関所を通るときには通行料が必要で,その通行料は本所である貴族や寺社に入るから,それを断ち切ることで,伝統的な権力を克服した。
まるで模範解答ですね。すごい!言う事ありません。
今日の授業では,信長の天下統一に向けた動きを見てきました。
信長が武力で全国統一を実現しようとしてきたことは分かってもらえたかと思います。
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