「”いいくに”つくろう鎌倉幕府」の語呂合わせで暗記するため,鎌倉幕府は1192年に成立し,鎌倉時代もここから始まったと考える人は多い。しかし,鎌倉幕府の成立がいつなのかという事については,さまざまな説があって定まっていない。ここでは6つの説について紹介しようと思う。
- 1180年の10〜12月 この時に源頼朝は鎌倉を本拠として,関東の武士団を支配する存在となっている。
- 1183年の10月 寿永二年十月宣旨という東国支配権を,頼朝が後白河上皇より認められた。
- 1184年10月 幕府の政治組織である,公文所・問注所が設置された。(侍所は1180年に設置)
- 1185年11月 義経追討を理由に,守護・地頭が設置された。
- 1190年11月 頼朝が右近衛大将に任命された。
- 1192年7月 頼朝が征夷大将軍に任命された。
どうしてさまざまな説に分かれるのかと言えば,講談社の日本の歴史の言葉を引用すると
これらの説が分かれるのは,どこに力点を置いて幕府を捉えるかという点にかかる。
例えば,幕府という言葉に力点を置けば,幕府というのは右近衛大将や将軍が戦時などにいる場所をさす言葉なので,幕府という言葉が成立するのは,頼朝が右近衛大将や将軍に任命されないと生まれない。したがって,(5)と(6)の時期のいずれかが幕府の成立と考えられる。
言葉の問題よりも支配,つまり頼朝政権が影響力を発揮するようになったことに力点を置けば,(1)〜(4)の説が考えられる。さらに鎌倉幕府の影響力が最も強い東国を事実上支配した時期を幕府成立とするなら,(1)〜(3)の時期が,そして,東国のみならず西国にも支配をのばした時期とするなら(4)の時期と考えることもできる。
では,私はどの時期を幕府成立時期とするかといえば,以前までは(4)の守護・地頭の設置の時期だと考えていた。しかし,鎌倉時代は公武二元支配の時期であり,幕府による西国の支配は頼朝時代には進まなかったことを考えると,東国の支配がはじまった(2)の時期が幕府成立にふさわしいと考える。
最近の高校日本史の教科書では,どのように書いているのかというと,
1192年には征夷大将軍に任命されて,鎌倉幕府は名実ともに確立した。(「高校日本史B新訂版」実教出版)
とあり,実体としての幕府は1180年からはじまっているが,幕府と呼ぶには征夷大将軍の称号が必要なわけで,1192年が名実ともに成立した時期と考えているようだ。
参考文献
山本幸司「日本の歴史09 頼朝の天下草創」(講談社,2001年7月)
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